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横浜地方裁判所 昭和47年(わ)142号 判決 1979年8月10日

本店所在地

横浜市西区南幸一丁目五番二七号

株式会社乙1

右代表者代表取締役

乙2

本籍及び住居

横浜市西区南軽井沢五番地の二

会社役員

乙2

大正一一年一月二八日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官岡準三出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告会社を罰金六〇〇万円に、被告人乙2を懲役八月に、それぞれ処する。

被告人乙2に対し、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告会社及び被告人乙2の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社乙1は、横浜市西区南幸一丁目五番二七号に本店を置き(昭和四六年七月四日以前は、東京都大田区蒲田五丁目二七番一二号に本店、蒲田店を置き、横浜市内に営業店舗として横浜店及びもつ焼一番を有していたが、蒲田店閉鎖後、本店を横浜店所在地に移転した。)、飲食店の経営等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人乙2は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人は、妻足立照子と共謀のうえ、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上の一部を除外して簿外預金を蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和四三年二月一日から同四四年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二、二五四万五、九六一円(別紙の修正貸借対照表参照)であったのにかかわらず、同四四年三月三一日、東京都大田区蒲田本町二丁目三〇番七号所在の所轄蒲田税務署において、同署長に対し、所得金額は二〇六万五、七四一円でこれに対する法人税額は五七万八、二〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額七六八万七〇〇円(税額の算定は別紙4税額計算書参照)と右申告税額との差額七一〇万二、五〇〇円を免れ、

第二  同四四年二月一日から同四五年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二、九三四万二、八二一円(別紙2修正貸借対照表参照)であったのにかかわらず、同四五年三月三一日、前記蒲田税務署において、同署長に対し、所得金額は二二六万四、三九九円でこれに対する法人税額は六三万三、九〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額一、〇〇五万九、七〇〇円(税額の算定は別紙4税額計算書参照)と右申告税額との差額九四二万五、八〇〇円を免れ、

第三  同四五年二月一日から同四六年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三、〇一〇万四二〇円(別紙3修正貸借対照表参照)であったのにかかわらず、同四六年三月三一日、前記蒲田税務署において、同署長に対し、所得金額は三三二万五、三一六円でこれに対する法人税額は九五万九、四〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額一、〇七九万九、二〇〇円(税額の算定は別紙4税額計算書参照)と右申告税額との差額九八三万九、八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)(甲、乙は検察官請求証拠番号を示す。)

判示冒頭の事実及び全般にわたり

1  第一回公判調書中の被告人の供述部分

2  被告人の検察官に対する各供述調書(三通乙一四ないし一六)

3  被告人の大蔵事務官に対する次の各質問てん末書

(1)昭和四六年四月二六日付(乙一)

(2)同月三〇日付(乙二)

(3)同年五月一九日付(乙三)

(4)同年六月一〇日付(乙四)

(5)同年七月三〇日付(乙八)

(6)同年八月七日付(四丁のもの、乙九)

(7)同日付(二丁のもの、乙一〇)

(8)同月一三日付(乙一一)

(9)同年九月一日付(二丁のもの、乙一二)

4  証人原正定(第三回)、同足立照子(第三回)、同前田昌男(第四、八、九回)の各公判調書中の各供述部分

5  横浜地方法務局登記官作成の登記簿謄本(甲一)

6  東京法務局大森出張所登記官作成の登記簿謄本(甲二)

7  被告人作成の同年八月七日付上申書(甲三)

8  足立照子(甲一八)、伴場考一(甲一〇)、白幡紀巳(甲二三)、伊田卓巳(二通甲二五、二六)、山口藤司(甲二七)の検察官に対する各供述調書

9  伴場考一(甲九)、松本郁夫(甲一九)、原正定(甲二〇)、白幡紀巳(甲二二)、伊田卓巳(甲二四)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

10  被告人作成の同年六月二五日付上申書(甲六七)

11  日栄証券株式会社経理部清算課池上和隆作成の上申書(甲六八)

12  次の者の作成にかかる各証明書

(1)安田信託銀行株式会社横浜支店長長根来肇(同年七月三〇日付四丁目のもの、甲四五)

(2)右同(同日付二六丁のもの、甲四八)

(3)右同(同日付二丁のもの、甲六二)

(4)城南信用金庫蒲田支店支店長松村孝(同年七月二七日付二丁のもののうち「預金残高および支払利息明細表」添付のもの、甲四九)

(5)右同(同年八月二日付、甲五〇)

(6)右同(同年五月一〇日付、甲五一)

(7)右同(同年七月二七日付一一丁のもの、甲六一)

(8)城南信用金庫生田支店支店長鈴木敏昭(甲五三)

(9)東京相互銀行横浜駅前支店支店長乙幡寿(同年七月二六日二丁のもの、甲五四)

(10)右同(同日付八丁のもの、甲五五)

(11)右同(同日付三丁のもの、甲六四)

(12)株式会社駿河銀行横浜駅前支店支店長山口藤司(同年七月二九日付二丁のもの、甲五六)

(13)右同(同日付九丁のもの、甲五七)

(14)右同(同日付三丁のもの、甲六三)

(15)安田信託銀行横浜伊勢崎町支店支店長安岡銀之助(甲五八)

(16)株式会社住友銀行横浜駅前支店支店長原満夫(甲六五)

(17)株式会社三菱銀行横浜駅前支店支店長加藤正二(甲六六)

(18)日興証券株式会社横浜駅前支店支店長矢津高達(甲六九)

(19)東京都大田税務事務所長(甲七一)

(20)大蔵事務官岩崎幸作

13  次の大蔵事務官作成の各差押てん末書

(1)岸野武男(甲四六)

(2)安田昇(甲四七)

(3)古川三良(甲五二)

14  神奈川県横浜県税事務所長作成の「法人事業税の納付状況について」と題する書面(甲七〇)

15  大蔵事務官前田昌男作成の同五四年一月九日付調査報告書

16  社団法人信託協会業務部長作成の「貸付信託(五年もの)配当率の推移について」と題する書面

17  押収してある次の各証拠物

(1)法人税確定申告書一綴(同五一年押第一九一号の三、甲六)

(2)右同(同号の四、甲七)

(3)右同(同号の五、甲八)

(4)総勘定元帳一綴(同号の一、甲七三)

(5)右同(同号の二、甲七四)

(6)右同(同号の七)

(7)郵便貯金通帳一通(同号の七二)

(なお、別紙5において、別紙1乃至3の各事業年度の修正貸借対照表の勘定科目につき、これと直接対応する証拠を前記各証拠に付した算用数字により掲記し、以下の説明で証拠番号として引用する。)

(弁護人の主張に対する当裁判所の判断)

弁護人は国税局の査察の結果その存在が把握された本件各事業年度内のほ脱所得金額の内容をなす仮名義又は無記名の普通預金、定期預金、定期積金、貸付信託、金銭信託などの各種銀行預金及び現金(別紙1乃至3の借方で当期増減金額欄に掲記されている金額。以下本件仮名義預金等という。)は、いずれも被告人の個人資産で、被告会社に帰属するものではなく、被告会社の申告額は適正妥当であり、本件はあらゆる見地から判断して被告人らは無罪である旨主張するので、以下に当裁判所の判断を示すこととする。

一  本件仮名義預金等が被告会社に帰属すると認定した理由

当裁判所は、判示認定のとおり、本件仮名義預金等は被告会社に帰属するものと認め、財産増減法により、本件各事業年度(以下判示第一乃至三の各事業年度を順次四三年度、四四年度、四五年度という。)のほ脱所得金額を認定したものであるが、その理由の要旨は次のとおりである。

本件仮名義預金等について、関係証拠によれば次の事実が認められる。

1  被告人は大蔵事務官に対する昭和四六年四月三〇日付質問てん末書(証拠3の(2))において、大要「法人税を少なくするために売上の一部を落していた。売上を落していたのは横浜の乙1ともつ焼一番の商店であり、実際売上の二割から二割五分位抜いていたので、実際の売上高から落した分の残りが公表の数字になっている筈です。乙1の売上除外は大した額ではないと思いますので、もつ焼一番の売上除外を二割から二割五分かもっと多く落したこともあります。売上除外額の計算は私が一切メモ等を残してないので調べる方法がなく、妻も記録はしていない筈ですが、城南信用金庫蒲田支店の定期預金や安田信託銀行横浜支店の貸付信託の増加を調べれば判るのではないかと思います。預金の増加については銀行間で預金を移しかえたことはありますが、それ以外は売上除外によるものです。

昔、土地の売買をやっていたことがあり、その時の金は現在城南信用金庫蒲田支店の定期預金としてずっと残っています。土地は、最近一〇年位売買をしたことがありませんし、株も四一年にきっぱりやめましたので、その後はそういう取引はありません。売上除外を始めた時期は昭和四〇年ごろからだと思います。」旨供述し、検察官に対しても同趣旨の供述(証拠2、同四七年一月二八日付)をしているほか、被告人の妻足立照子も第三回公判調書中(証拠4)において売上の一部除外を認めていること。

2  国税局査察官において、同四六年四月二六日、二七日の両日被告会社が脱税をしているとの嫌疑に基づき、安田信託銀行横浜支店及び同銀行伊勢佐木町支店の、足立照子が架空人名義で借用中の貸金庫、城南信用金庫蒲田支店等から多数の貸付信託証券、定期預金証書等を押収し(証拠13の(1)乃至(3)、8白幡紀巳、伊田卓巳)、これらに基づき更に各銀行に被告人及び被告会社に関連する預金の照会をした結果別紙6の(1)乃至(5)、7、9記載の各種銀行預金が把握されたこと

3  右各種銀行預金のうち、被告人の実名分及び家族名義分並びに仮名義預金のうち、その設定の経過が昭和四〇年以前に遡れる別紙9掲記の定期預金等については右1の被告人の供述から個人預金と認めるべきものであるところ、被告人は「私個人や家族の預金もそれぞれの実際名義で作っており、これは私や妻の個人収入の残りで作ったものです。」と供述しており、(証拠3の(1))、別紙9のとおり、実名分の預金の期中増加額は受取利息よりも毎年約二〇〇万円ずつ増加しているほか、とりわけ別紙9の仮名義分の城南信用金庫蒲田支店の定期預金の各年度末の増加が期中利息と一致する(四三年度の増加額が受取利息よりも一、六二九、一二四円少ないのは寺田俊雄名義等の定期預金の右と同額の個人預金が被告会社の預金に混入したためである。別紙11の(1)参照)ことから、後記6の仮受金として処理された分を除いて、個人預金から本件ほ脱所得の内容をなすとされる本件仮名義預金等への資金の流れは考えられないこと

4  検察官が本件ほ脱所得を構成すると主張する預金の内訳は、別紙6(1)乃至(5)、7記載の定期預金、貸付信託、金銭信託、普通預金、定期預金であるが(通知預金は四三年度過年度分)、関係証拠(別紙6の(1)乃至(5)、7、13の(1)乃至(4)掲記の証拠のほか、4の原正定、前田昌男の各供述部分、9の原正定)によれば、普通預金、定期積金などの解約年月日又は払戻年月日と定期預金、貸付信託などの預金の設定日との関係、金額の一致性などから検討すると、本件各事業年度における本件仮名義預金等の内訳、設定経過、継続性(設定経過は別紙6の(5)の通知預金、普通預金、別紙7の定期積金及び別紙13の(1)乃至(4)に付したabc・・・・で、継続性は↓で示す。)は別紙6の(1)乃至(5)、7のとおりであると認められること

5  右別紙6の(1)乃至(5)、7、9の銀行預金相互の関係を検討すると定期預金、貸付信託、通知預金は、貸付信託の一部を除いていずれも定期預金の解約金、及び普通預金の解約金、払戻金にその設定の淵源を求めることが出来る(なお金銭信託は、当該金銭信託及び上記貸付信託の利息が六か月毎に積み立てられたものである。)が、定期積金、普通預金自体は後記6を除いて原則として他の預金にその淵源を見出すことが出来ないこと

6  右5の普通預金、定期積金に関する例外として個人預金個人資産から混入したと認められる仮受金(別紙11の(1)、(2))、定期積金又は普通預金相互の振替があり、これらのうち普通預金に入金されたものの内訳は別紙8の(1)、(2)の「振替又は仮受金欄」に、定期積金に入金されたものは別紙7の注にそれぞれ記載されたとおりであること(なお普通預金のうち別紙6の(5)の田中一郎名義のものは定期預金の移動のために一時的に使われたにすぎない。証拠3の(3))、また貸付信託に関する例外として別紙6の(2)、3のうち1、8、9、10の全額、11、13、20、29、31のうち一部の金額は他の預金に発生の淵源を見出し得ないこと

以上1ないし6の事実を基に検討すると、被告人は昭和四〇年ころから被告会社の売上金の一部を除外し、仮名義の預金を設定していた事実を認めていること、被告人は同三六年以降は被告会社からの給料、貸借料のほか、前記の仮受金として処理した株式取引による収入以外には収入の源泉はなく(証拠2の四七年一月二五日付)、また前記の例外を除いて個人預金からの混入による影響が考えられないことに照らし、本件仮名義預金等は被告会社に帰属するものと推認するのが相当であるが、右仮名義の預金等から算出された各事業年度のほ脱所得の源泉は何かについて更に検討すると右5、6で検討した他の預金にその淵源を見出すことが出来ない普通預金及び定期積金の入金分(四三年度以降については別紙7、8の(1)、(2)の売上分欄参照)、貸付信託の一部(前記1、8ないし11、13、20、29、31別紙6の(2)、(3)、13参照)の金額は(証拠9原正定の大蔵事務官に対する質問てん末書中「普通預金へ入れず、いきなり貸付信託を作ったこと何回かあったと思います。」旨の供述記載)、いずれも被告会社の売上の一部除外金によるものと推認することができ、このことは被告会社の公表売上高(証拠17の(1)乃至(3))に対するこれら売上除外金と認められるものの除外率を算出すると別紙10のとおり四三年度二四・二六%、四四年度二八・五二%、四五年度二七・七九%とほぼ一定の割合を保っており、前記1の「売上の二割乃至二割五分位抜いていた。」旨の被告人の供述にも概ね沿う事実に徴しても明らかであり、前掲関係証拠によれば、本件各事業年度のほ脱所得のうち売上の一部除外金を除いたその余の分は、これに対する利子収入であることも明白であり、右認定を左右するに足りる証拠は存在しない。

ところで、弁護人は普通預金などへの入金を売上除外によるものと認めることは預金の不規則性、短期間に多額の預金が行なわれていることからみて困難であると主張するので検討するに、別紙8の(1)、(2)によれば普通預金への入金を売上除外とみた場合、入金間隔から一日当りの売上除外の平均は、その大半が五万円内外となり、弁護人の指摘するように一〇万円を超えるというのは例外であり、この点に関する弁護人の主張には、入金日、入金額(売上分)についての誤解に基づくと思われる主張が散見されるが、入金間隔から一日当りの平均額が一〇万円を超えるとみられる例についてみても弁護人の主張は入金日に手元にある現金を留保せず常に一度に入金するというという前提にたつものと思われるが,本件のように普通預金について、二、三の銀行を平行して利用し、別途に月掛の定期積金も利用していたことを考慮にいれると右のような前提自体それほど根拠のあることではなく、平均額が一〇万を超えるとみられる入金日を更に一、二回遡って入金状況を検討するとさほど不自然な入金とは言えないのみならず、宴会等の一時的な高額の売上、季節的な売上額の変動等も考えられないわけではなく、また、弁護人は、本件預金の不規則性をいうが別紙5の(1)、(2)で認められる入金状況の大半は月二乃至四回に分けて、合計約二〇万ないし一〇〇万円の入金がなされており、これは銀行員として普通預金を受入れていた原正定の供述(証拠4、9)とも符合するものであり、定期積金との関係を考慮にいれても本件普通預金の入金状況から右入金を売上除外と認めることは困難であるとの弁護人の主張は当らない。

次に、弁護人は、売上除外を認めた被告人の供述には信憑性がなく「売上の二割から二割五分落した。」との自供も、被告会社の経理を担当した杉田公認会計士から少しぐらいの金だから、その位やったということにして早く解決した方がいいよ。」と言われたことによるもので、その場しのぎの供述にすぎないというのであるが、右の被告人の供述は、昭和四六年四月二六、二七日に本件仮名義の預金等を含む預金、証書類の差押を受けて間もない同月三〇日の段階でなされた総括的な供述であるが、その後、本件各種銀行預金を詳細に分析して求められた結果の売上除外率にほぼ匹敵するのであって、この点からみても売上除外を認めた被告人の自供は十分信用するに足りるものであると言わなければならない。

二  本件仮名義預金等が隠れた仮名義銀行預金によるとの主張について(弁論要旨第四、第五の一)

弁護人は、本件仮名義預金等の源泉はいずれも被告人の過去の営業活動、不動産取引によって得た利益に基づくものである旨、すなわち、被告人は昭和三六年当時既に約一億四、〇〇〇万円余の銀行預金を有しており、この預金は利息の増加により同四三年一月三一日現在には約一億九、六九九万円に達していたとみられるものであって、これは検察官が主張する同期末の被告会社の簿外預金(別表1の過年度金額合計四、二九八万九、四〇一円但し、うち五六万円は現金)と個人預金(別紙9の同期末現在合計七、四七〇万五、三五五円)の合計額約一億一、七六九万円を約八、一三〇万円(約七、九三〇万円の計算誤りと思われる。以下同じ。)上回るものであって、この検察官において把握し得なかった被告人個人の約八、一三〇万円の銀行預金が移し替えられて、本件各事業年度における資産の増加(普通預金の入金)となったものである旨主張するのであるが、そのような隠れた仮名義の銀行預金がどのように移し替えられたかについての具体的事実はもとより、その存在自体についても、調査不能であることは、弁護人において自ら認めており、ただその存在の可能性を主張するものであるというのであって、主張自体まことにあいまいであるのみでなく、弁護人が主張する隠れた預金からの銀行預金間の振替え現象は、前記一で認められる各種預金等の設定経過乃至資金の流れに徴すると極めて不合理不自然な現象と言わざるを得ず、弁護人の前記主張は到底採用することが出来ない。

三  定期積金は家賃分であるとの主張について(弁論要旨第二の二の(三)の(4))

弁護人は、本件各事業年度にまたがる岩田吉雄名義の定期積金(別紙7)は、被告会社が被告人に支払うべき家賃分をもってこれに充てたものであると主張するので、この点について検討するに、前記足立照子の供述は、(証拠4)にはこれに沿う部分があり、本件各事業年度内の定期積金の総額は八七四万五、〇〇〇円であり、この期間内(同四三年二月から同四五年九月まで)に被告人が受理すべき家賃合計額は九五二万円(弁護人主張の九四二万円は計算誤りと思われる。)になり一応家賃分に近い数額であること、掛金である二六万五、〇〇〇円という額は、横浜の乙1ともつ焼一番の家賃(月額)合計二六万円(但し、四五年度分)に近似していることが認められる。しかし、押収してある決算書等綴一綴(昭和五一年押第一九一号の八)によれば、本件岩田吉雄名義の定期積金が設定された同四二年一〇日当時の家賃(月額)は二三万円、四三年度、四四年度はいずれも三一万円であること、本件定期積金中普通預金から払出して積立てられたと認められる部分(別紙7)も存するが、被告会社の簿外預金が存在しない旨の弁護人の主張を前提とすると個人資産である他の銀行預金から、被告人個人が受領すべき家賃分を振り替えたこととなりそれ自体矛盾した主張という外なく、かえって右定期積金の掛金額である二六万五、〇〇〇円という金額は三年間三六回積立てると元利合計額がほぼ一、〇〇〇万円になるところから算出された掛金にすぎず、右掛金は家賃とは関係がないと認めるのが相当であるから、この点についての弁護人の主張は採用し得ない。なお、弁護人は、右定期積金について検察官の主張を前提としても過年度分の元金に対する利息は過年度分の受取利息として本件ほ脱所得から減額すべきである旨主張するが、定期預金、定期積金その他の銀行預金について過年度分の元金の利息を利払期(利盛期)の収益に計上することは合理的な会計処理方法であり問題とするに当らない。

四  本件ほ脱所得金額の算定方法について(弁論要旨第六)

弁護人は、本件ほ脱所得金額の算定方法について、法人税ほ脱犯における所得金額の計算はいわゆる損益法によって確定すべきであって、財産増減法による推計は許されるものではなく、仮に許されるとしてもそのためには、客観的条件の充足が必要であり、かつ、その推計が合理的でなければならない旨主張する。

そもそも刑事裁判において、ほ脱所得を算定するに当り、一応の立証で足りる単なる推計が許されないことは言うまでもないことであり、法人税法が計算規定として損益法を定めていることも所論のとおりであるが、ほ脱犯の立証にあたっては、計算形式そのものでなく、法人税法上の計算に従った結果たる所得額が問題となるのであって、会計記録が不備なために損益法によることができない場合に、損益法によって算出されたならば得られたところの所得を財産増減法によって算定することが法人税法上許されないわけではない。

これを本件についてみるに、前記のように被告人は売上を除外しかつそれに関する一切のメモ等を作成しておらず、しかもその売上除外金が本件各事業年度の簿外預金、簿外現金にそのまま化体しているのであって、このような場合、被告会社の公表の貸借対照表を基にこれらの被告会社に帰属すると認められた簿外預金、簿外現金の各事業年度の期首、期末における金額を確定的に把握し、更に個人預金、個人資産から混入した可能性のある分についてはその利息分(最高利率を適用)を含めて仮受金として処理し財産増減法により本件のほ脱所得金額を確定することは、他に特段の事情が認められない本件では(なお、本件では前記仮名義の預金等の帰属だけが争点となっているにすぎない。)それが損益法立証による算定法と一致するか、少くともそれ以上ではないものと認められることから考えても、当然許容されるべき算定方法といわなければならないからこの点についての弁護人の前記主張も採用し得ない。

五  各種経営指標、荒利益率等に関する弁護人の主張について(弁論要旨第二の一、二の(一)(二)、三、第三)

弁護人は、本件財産増減法による所得金額の算定をいわゆる推計所得と捉えて、流動比率、所得率、荒利益率等によって本件所得が不自然なほど高額な脱税であると主張するが、本件では関係証拠により財産増減法によって疑問の余地なく立証がなされているのであって、右のような反証が本件所得金額を具体的に覆えすに足りるものとは考えられず、この点に関する弁護人の主張も採用し得ない。

(法令の適用)

被告会社につき

判示各所為はいずれも法人税法一五九条、一六四条一項に該当するが、以上は刑法四五条前後段の併合罪なので、同法四八条二項により各罪所定の罪金の合算額の範囲内で被告会社を罰金六〇〇万円に処する。

被告人につき

判示各所為はいずれも法人税法一五九条、刑法六〇条に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により犯罪の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役八月に処し、同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

訴訟費用につき

訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文,一八二条により被告会社及び被告人乙2に連帯して負担させることとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石橋浩二 裁判官 草野芳弘 裁判官 高橋隆一)

別紙1

修正貸借対照表(省略)

別紙2

修正貸借対照表(省略)

別紙3

修正貸借対照表(省略)

別紙4

税額計算書(省略)

貸借対照表(省略)

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